システム・アナリティクス

概要

応用確率論や理論アルゴリズム,ゲーム理論やメカニズム・デザインといった情報科学の知見を駆使して,ビッグデータを高度に活用する超大規模なデータセンターやネットワークシステムの高速性,高信頼性,高機能性,高い省エネルギー特性を実現する要素技術・システム構成法・システム制御法,さらにはシステム上で提供されるサービスの高度化や,システムを用いたビッグデータ処理技術に関する研究を行います.また,情報ネットワーク科学的観点から,ネットワーク化された大規模システムのハザードの挙動予測やハザード制御,システムの安全性とハザード管理・制御のトレードオフ分析に向けたネットワークモデリング,ネットワーク性能評価,ネットワーク設計法に焦点を当て,マルコフ連鎖的アプローチに加えて確定的なネットワーク性能評価法やリャプノフ最適化論に基づく情報流スケジューリング法,大規模ネットワークの高速シミュレーション手法等について研究を展開します.

パフォーマンス・モデリング

待ち行列理論やマルコフ解析,大偏差理論,極値理論といった応用確率論を駆使して対象システムの性能を数理的に分析し,ボトルネック箇所の同定や性能向上に向けたシステムパラメータ・チューニング,さらには高性能を達成する ジョブ・スケジューリングやサービス・メカニズムについて検討を行っていきます.また,理論的な検討のみに留まらず,コンピュータ・シミュレーションや大規模分散並列処理実験システムを活用した実機実験を通じて提案手法の有効性・有用性を多角的に調査し,実社会への技術還元をも積極的に狙って行きます.

ビットコイン・システムの分析とパフォーマンス改善に向けたメカニズムデザイン

ビットコインはインターネット上で中央集中型のサーバを持たずに貨幣を実現する分散型仮想通貨です.ビットコインでは,送金トランザクションはP2P通信でマイナー(採掘者)と呼ばれる複数の取引承認用サーバに同報され,各マイナーは複数のトランザクションをブロック化して取引承認のためのマイニング(暗号化されたハッシュ関数を解くくじ引き行為)を行います.最初にマイニングに成功したマイナーは新規ブロックをブロック・チェーンと呼ばれる取引台帳に登録し,システムから報酬を受け取ることでトランザクション処理が完了します.

ビットコインはインターネット上の仮想通貨のために低コストで瞬時に海外送金できる利便性を有しており,そのため発展途上国では出稼ぎ労働者の送金手段として需要が高く,今後は金融機関では取り扱いが難しい少額送金(マイクロペイメント)手段としての需要も高まってくることが考えられます.しかしながら,現状のビットコインでは,取引金額や送金者が支払う手数料によって送金トランザクションの優先権が決定されるため,少額取引は高額取引よりも優先順位が低くなり,承認までに長時間要するといった問題があります.

ビットコインのもう一つの大きな問題として,報酬減額によるマイナーのインセンティブ低下問題があります.ビットコインでは,成功報酬が4年毎に半減されるしくみとなっているため,将来的にはマイナー数が減少することで取引承認時間が増大したり,セキュリティが脆弱になるといった問題が懸念されています.

ここでは少額取引の承認遅延問題とマイナーのインセンティブ低下問題を解決するため,二つの問題が共に大きく関係するトランザクション優先処理メカニズムに着目し,待ち行列理論およびゲーム理論を駆使してユーザの利便性向上とマイナーのインセンティブ向上を同時に実現するトランザクション優先処理メカニズムを確立します.