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ネットワーク・デザイン(制御可能型P2Pコンテンツ配信)

制御可能型P2Pコンテンツ配信

コンテンツ配信サービスは一般に,私たちの所有するクライアント端末(パソコン,スマートフォンなど)からウェブブラウザなどを用いてコンテンツの配信元であるサーバにリクエストを送ると,サーバがクライアントに対してコンテンツを送信する仕組みとなっています.そのため,ユーザからのアクセスが集中すると,サーバからインターネットへのアクセス回線におけるアップロード容量がボトルネックとなります.

サーバへの負荷集中を軽減し,より多くのユーザへのサービス提供を可能とする技術にピア・ツー・ピア(P2P)技術があります.P2P技術は,Winnyなど特定のコンテンツ共有ソフトにおいて著作権侵害の問題を巻き起こしたこともあり,世間ではネガティブな印象を持たれているかもしれませんが,近年その有用性が見直されつつあります.例えば,LinuxなどフリーOSのインストール用イメージなど大容量コンテンツの配信にはBitTorrentが利用されており,また,Windows10のセキュリティアップデート用パッチデータの配信にBitTorrent型のP2P技術の利用が予定されています.P2P技術を用いたコンテンツ配信では,参加中のユーザ端末(ピア)がサーバからピース(コンテンツの断片)を受信するだけでなく,受信したピースを他のピアへと送信することにより,サーバへの負荷集中を抑制するとともに,ピア数に比例した配信能力を備えたコンテンツ配信システムを構築できるようになっています.

ただし,これはあくまで配信システム側からの視点であり,実際のピアはユーザの操作する端末であることから,コンテンツ配信への協力はあくまで各ユーザの意思にゆだねられます.その結果,P2Pコンテンツ配信においては,ピアが他のピアからピースを取得するだけで,他のピアへピースを提供しない,ただ乗り行為が起こりやすい問題があります .このような問題に対し,P2Pコンテンツ配信方式の一つであるBitTorrentでは,ゲーム理論におけるTit-For-Tat (TFT)戦略を導入しています.TFT戦略は,他のピアからのピース取得には自らのピース提供が必要となるという仕組みであり,このことにより,ピアの他ピアへの積極的なピース送信が促進されるようになっています.

近年,我々の研究グループにより,こうしたTFT型P2Pコンテンツ配信の新たな可能性が発見されています .これまでP2P技術を利用したシステムではシステム全体の制御が困難であると考えられていました.これは,先ほど述べたように,本来,各ピアはそれを操作するユーザの意思に従って動作することが主な要因です.コンテンツ配信システムにおいては,サーバはシステム全体としての性能(例えば,ピアがコンテンツの取得を開始してから完了するまでに要する時間)がよくなるように配信を試みますが,一方,それぞれのピアにおいては,自身のコンテンツ取得完了時間をできる限り短くしたいという思惑があります.先ほど述べたように,実システムでは,ピア数の増加に対してサーバのアップロード容量がボトルネックとなる傾向があるため,すべてのピアに対して各自のコンテンツ取得完了時間を最小化することはできません.そこで,サーバとしては,このようなピア間での競合関係の下,システム全体として望ましいコンテンツ配信を実現する必要があります.

このような問題に対する解として,我々はサーバのピース送信戦略(どのピアにいつどのピースを送信するか)とTFT戦略の組合せに着目しています.実システムでは,サーバのアップロード容量がボトルネックとなる傾向にあります.そのため,互いに異なるピースを保持するピア間でのみピース交換が可能となるTFT制約により,各ピアのとりうる選択肢(どのピアからどのピースを取得できるか)は大きく制限されます.さらにこの選択肢は,サーバのピース配送方式によって制御できます.その結果,各ピアは従来通り,あくまで自身の保持していないピースをできる限り速く取得しようと利己的に振る舞うことになりますが,その結果,システム全体としてはサーバ(配信者)にとって望ましいコンテンツ配信を実現できることになります.

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