研究内容 >> 災害時のモバイルクラウド避難誘導

災害時のモバイルクラウド避難誘導

2011年3月に起きた東日本大震災では,通信インフラの被災により,固定通信網・携帯電話網ともに長時間かつ広範囲で利用できなくなり,その結果,安否情報・避難情報・行政情報など様々な重要性の高い情報を被災者・救助者が円滑に収集・配信することができなかった事例が多数報告されています.我々の研究室ではこのような背景を下に,情報通信技術(ICT)を用いることで,いつでも・どこでも・誰に対してもストレスフリーな避難誘導を提供可能なシステムを目指しています.「いつでも・どこでも・誰でも使えるシステム」という目的の実現には,誰もが簡単に利用可能な情報通信機器の普及が必要不可欠ですが,幸運なことに我々は携帯電話やスマートフォン(モバイル)をすでに日々利用しています.2014年の時点で携帯電話の普及率は112.5%,スマートフォンの普及率は36.9%に達しており,今後も益々の普及が期待されます.この常に携帯しているモバイル端末の利用,そしてユーザによる端末の操作を必要としないシステム設計を組み合わせることで,災害発生直後という極度の緊張状態においても,避難者にストレスを与えることなく,安全で安心な避難誘導を実現できると考えています.

人・端末・デバイス間連携による自動的な被災状況推定・避難誘導

平常時に避難者の所有するモバイル端末に避難誘導のためのアプリケーション(以降、避難誘導アプリ)を導入することで、地図と避難所の情報など静的な情報については端末中に事前に保持することができます。一方、安全な避難所とそこに至る安全な避難経路に関する情報は災害の発生毎に異なり、また発生前に予想することが難しい動的な情報です。このような被災状況や適切な避難経路の情報は,避難者の避難行動に合わせて以下のように自動的に取得・提示することができるようになります.

上の図は,ある避難者に着目した被災状況推定と避難誘導の流れを表しています.災害発生直後,避難誘導アプリが起動されることで,自動的に現在位置を取得し,最寄りの避難所への経路を推薦経路として提示します(図の手順1).避難者は,避難誘導アプリにより提示された推薦経路に従って移動を試みます.ここで避難者が推薦経路を移動中に通行不能な道路を発見すると(図2の手順2),避難者自身の判断に基づき別の道路へと迂回する(図2の手順3)と考えられます.これはカーナビなど通常のナビゲーションシステムにおいて,提示した経路からユーザが離脱する状況と似ています.避難誘導アプリでは,定期的に位置情報を計測し,避難者の行動を軌跡情報として取得します.その結果,軌跡の推薦経路からの離脱を検知することができ,同時に,推薦経路上で軌跡とずれが生じた道路を通行不能箇所(被災状況)として学習することができます(図2の手順4).さらに避難誘導アプリは,最新の位置から通行不能箇所を通らないという条件の下,最寄りの避難所の位置と新たな推薦経路を再計算し,提示することができます(図2の手順5).このようなシステムと避難者との相互作用を繰り返すことで自動的な被災状況推定と避難誘導が実現されます.

このように,各避難者の避難行動に応じて,それぞれの端末には発見された通行不能箇所の情報が蓄積されていきますが,これらの情報を避難者間で共有することができれば,各自の避難行動を改善できる可能性がでてきます.例えば,避難行動が遅れた避難者が先に避難成功した避難者の知見を得ることで,通行不能箇所を迂回するような適切な避難経路を迅速に把握できるようになります.このような情報共有の手段としては,端末間の直接無線通信をバケツリレー的に繰り返すことで情報転送を実現するDTN (Delay Tolerant Networking)技術や,被災後も残存する通信インフラを介したクラウドとの連携が考えられます.また,モバイル端末上で計算された避難経路については,近年注目が高まっているメガネ型ウェアラブルデバイス上に表示することで,より自然な形での避難誘導の実現が期待できます.

以上のような提案方式の優れている点は,避難者はあくまで通常通りの避難行動を行っているだけで端末やデバイスの操作を一切必要としないことです.システムからの避難経路提示に対して避難者の取った行動(移動軌跡)がフィードバックとしてシステムに返されることで,システムが自動的に状況を推定・判断し,適切な指示を新たに避難者に提示することができるようになります.避難途中は身の安全が保証されていないため避難行動以外の行動は極力控える必要があり,また,はじめてシステムを利用する人に対しても確実に避難誘導をサポートできる必要があります.本方式では,避難者による端末・デバイス操作をなくすことで,誰もが利用できるシステム作りを目指しています.

外部資金・研究成果

  • 総務省 戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)平成26年度研究開発課題「端末の移動軌跡情報を用いた被災状況推定・避難誘導システムの研究開発」,笹部(研究代表者)・川原(研究分担者)
  • 小松展久, 笹部昌弘, 川原純, 笠原正治, “モバイル端末の軌跡情報を用いた避難誘導方式の提案と評価,” 信学技報, vol.114, no.404, pp. 101-106, 2015.1.

前のページ | 次のページ